がくしゅうちょう

書いて残す

2018/7/6 am5:13

 

仕事が終わったのが昨日の22時前くらい、そのまま自分の家には帰らずに友達の家にきて、いま朝の4時半を過ぎたところだ。彼女とは高校の部活が同じで、もう7年の付き合いになる。最近お互いにひとり暮らしを始めたのでどちらかが電話を急にかけては夜中に相手の自宅におしかける、みたいなことをしている。今回は初めて私が彼女の家に泊まりにきた。たわいのないことをぽつぽつと話していたのがいつのまにかふたりとも眠ってしまって、それから私のほうがはやく目が覚めたようだ。
ここは3階だから遠くのほうが見渡せてとても良い。窓のそと、手前は住宅地で民家が密集していて、それをずっと辿ったいちばん奥のほうには工場地帯がみえる。日が昇り始めて薄明るくなってきた地平線に直線だけで構成された工場地帯のシルエットがしずかに浮かび上がっていて、なんだか現実味のない光景だなとおもう。
昨日はずっとどしゃぶりの雨が続いていて、私の家は高台にあるから水害の心配はないけど携帯に何度も避難勧告の通知が来ていた。予報によるとどうやら今日もこの辺りはひどい雨が続くみたいだ。今は雨は止んでるらしい。屋根からしずくがぽたぽたとおちる音と、車が道路の水溜りを踏んで走る音が聞こえる。
この部屋に泊まりにきたのは今回が初めてのはずなのに、なんだか以前にもこんなことがあったような気がする。自分の部屋じゃないところにいて、しずかで薄暗くて、遠くの方から車の走る音が聞こえる、近くに人がいるけど自分しか起きていなくて、なんだかどこか現実じゃない場所に迷い込んだみたいに心細くなるような…だれといたのか、どこにいたのかはっきりと思い出せない、というかそもそも現実に体験した思い出なのか、いつかみた夢の中の出来事なのかもよくわからない。でもなんだか、この心細さを私は知っている。知っていて、知っているはずなのに思い出せない。これは他人には見向きもされないささやかなこころの揺らぎ、とか、なんの意味もないようなことだ。別に意味をさがす必要なんてないけど、どんなに丁寧に辿っても到達点がないようなこのなんとも言葉にし難い、些細な感覚の重なり合いが、いまの自分にとってとても大切なものと私のこころとを引き合わせてくれているんじゃないか、なんてことをぼんやりと考えてみる。
気がつかないようなゆるやかさで太陽が昇ってきている。薄暗かった部屋に、オレンジ色の光が徐々にさしこんできていた。この心細さも太陽が昇りきったころにはすっかり忘れているだろうかと思うと、なぜか心がひり、と痛む。
背後からきこえていた寝息のリズムがすこし変わったのを感じる。数時間前に設定した携帯電話のアラームがもうすぐ鳴り出す頃だ。ひとりで起きている間、とりわけ意味もなく心細かったことは彼女には話さないまま、きっといつまでも私だけが覚えている。